
イソトレチノインとは?
イソトレチノイン(海外では「アキュテイン」「ロアキュタン」などの商品名でも知られます)は、重症のニキビ治療に用いられるビタミンA誘導体の経口薬です。1982年にアメリカで承認され、毛穴の詰まりを抑えて皮脂分泌を減少させることでニキビを劇的に改善する内服薬となっています。
治療効果は非常に高く、90%以上の患者でニキビ症状の大幅な改善が認められると言われており、近年日本でも多くの方が内服するよになりました。
一方、イソトレチノインは強力な薬であるがゆえに副作用や注意点も多く存在します。最も多い副作用は皮膚や粘膜の乾燥で、唇のひび割れや肌のカサつきなどが多くの方に起こります。
皮脂が減少し角質の生まれ変わりが促進されるため、肌が薄く敏感になる傾向があります。また日光への感受性が高まる可能性があり、紫外線によるダメージを受けやすくなります。このように皮膚のバリア機能が低下するため、治療中は肌への刺激をできるだけ避け、保湿や日焼け止めの使用などスキンケアに注意が必要です。
さらに、催奇形性(胎児への有害性)が非常に強いため、妊娠中の服用は禁止され、女性は治療中および治療後もしばらく避妊が必須となります。また日本では学会としての公式なデータやガイドラインはまだ整備されておらず、欧米の研究報告に基づいて臨床判断がなされています。

イソトレチノインと医療脱毛の関係
イソトレチノイン服用中にレーザー脱毛などの施術を受けてもよいのか? これはニキビ治療中の方にとって大きな疑問点です。一般的な噂として「イソトレチノインを服用しているとレーザー治療(医療脱毛を含む)には少しリスクがあるため、内服を1ヶ月ほどはやめてください」と言われることが多く、実際に服用中・服用歴のある患者さんの施術を断るクリニックも存在します。そのため、「ニキビ治療中の脱毛は無理なのか」「ロアキュタンを飲んでいる間はレーザー施術は諦めるしかないのか」と不安に感じる方もいるでしょう。しかし結論から言えば、現時点でイソトレチノインと医療脱毛の併用で深刻な有害事象が生じるという明確なエビデンスはありません。以下では、なぜそのような噂が生まれたのか、背景とリスクについて解説します。
なぜレーザー脱毛が問題視されるのか?

イソトレチノインがなぜそもそもレーザー脱毛で注意と言われるようになったかというと、イソトレチノイン内服によって皮膚が乾燥し、火傷のリスク等が上がることや皮膚の再生や治癒が遅れる可能性が指摘されてきたためです。過去1980~90年代に、イソトレチノイン服用中にレーザー治療や皮膚の剥脱処置を行った患者で傷の治りが遅れたり、肥厚性瘢痕(ケロイド状の傷跡)が生じたとの症例報告があったことも要因となっています。
例えば1988年の報告ではイソトレチノイン内服中に行ったレーザー治療後に創傷治癒遅延とケロイド発生が示唆され、1990年代にも類似の事例が散見されたのです。このような報告を受け、長らく「イソトレチノイン治療中および終了後6ヶ月間は、レーザー施術などの美容処置を避けるべき」という慎重な指針が広まりました。特に創傷治癒への影響(傷が治りにくくなる)、それに伴う火傷や瘢痕形成のリスクが懸念されたのです。
考えられていた主なリスク要因: イソトレチノイン服用中に医療脱毛(レーザー照射)を行うと、以下のようなトラブルが起こる可能性が指摘されていました。
- 火傷(熱傷):皮脂が減り乾燥し角質が薄くなった肌は熱刺激に弱く、レーザーの光熱で通常より重い火傷を負う恐れがあると考えられました。さらに、火傷後の水疱(やけどの水ぶくれ)ができるリスクも懸念されました。
- 創傷治癒の遅れ:イソトレチノインは皮膚の修復に関わる細胞増殖を抑える可能性があり、レーザー照射により生じた微小な損傷の治りが遅延することが心配されました。その結果、瘢痕(傷跡)やケロイドが通常より生じやすくなるリスクです。
- 色素沈着:レーザー後の炎症に対し、肌が過敏になっていると炎症後色素沈着(黒ずみ)が起こるリスクが高まる可能性があります。特に日焼けしやすい状態でもあるため、色素沈着や一時的な色抜け(低色素斑)などのリスクが取り沙汰されました。
以上の理由から、「イソトレチノインと医療脱毛の併用は危険」という見解が長年定着していたのです。実際、米国皮膚科学会(AAZ)のガイドラインでも、以前は「イソトレチノイン中または終了後6~12ヶ月はレーザー治療を控えるべき」と勧告していました。日本のクリニックでも「服用中は脱毛不可」「終了後半年間は施術不可」といったルールを設けている所があります。
しかし、こうした従来の指針は少数の症例報告(ケースレポート)に基づいているに過ぎず、科学的な比較試験に裏付けられたものではないことに注意が必要です。つまり、「絶対に施術NG」という厳格なルール自体がエビデンスに乏しかった可能性が指摘されています。では実際のところ、近年の研究ではどのような知見が得られているのでしょうか?
最新の研究とガイドライン
近年、このテーマについて多くの臨床研究やレビューが行われており、従来考えられていたほどリスクは高くないことが明らかになってきました。2010年代以降、ニキビ治療中の患者に対してレーザー脱毛を含む各種レーザー施術を行った報告が相次いでいます。2020年にイエール大学によって報告されたレビューで、イソトレチノイン使用中のレーザー治療の安全性を評価し、29件の研究(患者871人)を分析しました。副作用は12例の軽微なもののみで、ケロイド形成は2例(いずれも症例報告)。従来の禁忌は30年以上前のケース報告に基づくが、本レビューではリスクは極めて低いと示唆されました(Mirza2020)。
しかもその2例も過去の症例報告からのもので、対照試験において新たに深刻な瘢痕が生じた例は皆無でした。レビューワーらは「イソトレチノインとレーザーの併用に伴うリスクはごく小さいか、事実上存在しない」と結論づけ、従来の過度に慎重すぎる禁忌事項は見直すべきだと提言しています。
特に医療脱毛(レーザー脱毛)に関する安全性について、複数の研究が肯定的なデータを報告しています。
- 110例の後ろ向き研究: イソトレチノイン治療中にレーザー脱毛を受けた患者122例と、同期間に脱毛を受けていない患者61例を比較した報告では、両群とも瘢痕形成や創傷治癒遅延、ケロイド発生は一切認められなかったとされています。すなわちイソトレチノイン内服の有無で脱毛後の傷の治りに差はなかったという結果です(Chandrashekar 2014)。
- 7例の症例研究: イソトレチノイン服用中の女性7人に対しダイオードレーザー(波長810nm)で医療脱毛を施行したケースシリーズでは、大きな副作用は一切報告されませんでした。一時的な発赤やヒリヒリ感は見られたものの、重篤な火傷や瘢痕は生じなかったとのことです(Khatri 2007)。
- 52例の比較研究: 2021年に発表された研究では、イソトレチノイン内服中にレーザー脱毛を受けた患者52例と対照群で副作用発生率を比較しました。その結果、イソトレチノイン群で一時的な痂皮形成(かさぶた)が3例、小範囲の一過性低色素斑が1例見られたのみで、対照群との有意差はなく(対照群でも痂皮5例)、両群とも水疱、永続的な色素異常、潰瘍、瘢痕・ケロイド形成は一例も確認されませんでした。研究者らは「アレキサンドライトレーザー、ダイオードレーザー、Nd:YAGレーザーによる医療脱毛は、イソトレチノイン服用中でも安全に実施できる」と結論付けています(Guduk 2021)。
この他にもフラクショナルレーザー(ニキビ跡治療)やケミカルピーリングをイソトレチノイン内服中に行った報告でも、対照群と比べて瘢痕や色素沈着の増加は認められないとの研究が多数出てきています。つまり、従来の「6ヶ月ルール」に明確な根拠はなく、内服しながらであっても安全に施術できたケースが多いというのが最新の科学的見解です。
では、各種ガイドラインや専門家の見解はどうなってきているのでしょうか? アメリカでは先述のようにAADの旧ガイドラインでは慎重な姿勢でしたが、2017年に専門家グループによるコンセンサスステートメント(意見集約)が発表され、イソトレチノイン服用中でもケースに応じてレーザー脱毛をはじめとする美容施術を行ってよいとの方向性が示されました。以降、米国や欧州の皮膚科医の間でも認識が変わりつつあり、「安全に行える施術まで半年も待つ必要はない」という考えが広まっています。実際、米国FDA自体はレーザー施術について特別な禁忌を設けておらず、主に妊娠管理(iPLEDGEプログラムによる妊娠予防)が重視されています。一方、日本皮膚科学会は前述のように公式なガイドラインはありませんが、国内の多くの皮膚科専門医は海外の最新エビデンスを踏まえて患者ごとに柔軟に判断するべきとの立場を取り始めています。
当然ですがアレキサンドライトレーザ(755nm)、ダイオードレーザー(810nm)、ロングパルスNd:YAGレーザー(1064nm)など、現在日本で医療脱毛に広く使われている機種で安全性が確認されています。
これらはいずれも毛のメラニンに反応して毛根部に熱ダメージを与えるレーザーですが、Nd:YAGレーザーは皮膚深部まで到達しやすく表皮への影響が相対的に少ないため、色素沈着しやすい肌質の方や日焼け肌の方にも向いていると言われます。いずれにせよ、適切な波長・出力で照射すれば特定のレーザーだから特別に危険ということはないと考えられます。もちろん重要なのは患者さんの肌状態に合わせて調整することですので、100%安全、100%危険などではなく各患者さんの状態をみて施術することが大切となります。
安全な脱毛方法とは?
以上を踏まえ、イソトレチノイン服用中に医療脱毛を受ける場合の安全対策やおすすめの方法についてまとめます。最新の知見では「絶対にNG」ではないとはいえ、やはり通常時に比べて肌がデリケートになっていることは確かです。安全に脱毛するために、以下の点に注意しましょう。
- 治療者への報告:まず大前提として、今まさにイソトレチノインで治療中であることを医療脱毛を受ける施術者(クリニック)に必ず伝えてください。 イソトレチノインを処方してくれている医師にも、脱毛を希望している旨を報告しましょう。医師は肌の状態や内服量から適切な判断を下してくれますし、施術側も事前に把握していれば照射設定など配慮できます。
- 施術タイミングの調整: 最新の研究では半年も待つ必要はないとされていますが、それでも治療開始直後や副作用が強く出ている時期は避けるのが無難です。なのでもし可能であれば無理をせずにイソトレチノイン内服を終了して数週間から1ヶ月ほどは待ってから行うことがベターです。
- 肌コンディションの整備: 脱毛施術を受ける前には、可能な限り肌のコンディションを整えておきましょう。具体的には保湿ケアを徹底し、乾燥による皮膚の脆弱化を抑えることが重要です。イソトレチノインで乾燥しがちな肌に十分な潤いを与えることで、レーザー照射による刺激への耐性が高まります。また直前の日焼けは厳禁です。普段から日焼け止めを使い、施術前後も日光曝露を控えてください。肌が焼けていると火傷や色素トラブルのリスクが上がります。
- 避けるべき脱毛方法: 特にワックス脱毛や毛抜き、強い摩擦を伴う処理は絶対に避けましょう。 イソトレチノインで角質が薄くなった肌から無理に毛を引き抜くと、表皮ごと剥がれて出血したり、酷い炎症や色素沈着を起こす危険があります。実際、米国皮膚科学会も「服用中および終了後6ヶ月はワックス脱毛をしないように」と注意喚起しています。家庭用の強力な脱毛クリームなども刺激が強いため避けてください。医療用レーザー脱毛は毛根のみを標的とし皮膚への侵襲が比較的少ないため安全性が高いですが、それ以外の物理的に毛を引き抜く処理は控えた方が無難でしょう。
- 施術中・施術後の注意: レーザー脱毛を受けている最中にいつもより強い痛みや熱さを感じたら、我慢せずスタッフに伝えましょう。出力を調整してもらうことで火傷を防げます。施術後は指示されたアフターケア(冷却や軟膏塗布など)をきちんと行い、自宅でも保湿と日焼け対策を続けてください。仮にいつもより赤みが長引いたりヒリヒリが強いと感じた場合も、早めに医師に相談しましょう。適切な処置を行うことで大事に至るのを防げます。幸い、近年のデータではイソトレチノイン服用中でも脱毛後に通常と変わらない経過をたどるケースがほとんどです。過度に神経質になる必要はありませんが、経過を注意深く観察するに越したことはありません。
まとめ

イソトレチノイン(ロアキュタン)服用中の医療脱毛について、最新の科学的知見と安全対策を解説しました。かつては「服用中は絶対NG」と考えられていましたが、現在では適切な条件下であれば医療脱毛を安全に受けられる可能性が高いことが分かっています。鍵となるのは肌の状態を見極め、信頼できる医療機関で慎重に施術を行うことです。副作用で肌が極度に乾燥・脆弱になっている場合は無理せず落ち着くのを待ち、そうでなければ専門家と相談の上で計画を立てましょう。幸い、レーザー脱毛自体は毛根への選択的なアプローチであり、正しく行えばイソトレチノイン治療中でも火傷や瘢痕といったリスクは必要以上に恐れる必要はありません。大切なのは古い情報にとらわれすぎず、最新のエビデンスと専門医の判断を信頼することです。
ニキビ治療と医療脱毛を両立させて、肌を綺麗にしていきたいですよね。ぜひ一人で悩まずクリニックに相談し、最適なタイミングと方法で脱毛を行ってください。医師への相談を通じて、安全かつ効果的にムダ毛の処理を進めていきましょう。
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記事執筆

- 森口翔 M.D. Ph.D
- 慶應義塾大学医学部卒業
- 慶應義塾大学医学部大学院博士課程修了
- 医療脱毛専門クレストスキンクリニック医師