
医療脱毛における金製剤服用患者のリスク
金製剤(抗リウマチ薬としての金療法)を長期使用した方では、皮膚に金粒子が沈着しうるため、レーザーや強い光の照射によってクリシアシス(chrysiasis)と呼ばれる青灰色~紫色の色素沈着が生じるリスクがあります。
クリシアシスは主に日光など光曝露部位の皮膚に現れる特徴的な色素沈着で、金製剤の静脈・筋肉内投与を受けた患者に起こり得る副作用です。特にQスイッチレーザー照射後にこの現象が報告されており、金療法を受けているか、過去に受けていた患者ではレーザー照射部位が直ちに青色~灰色に変色する症例が複数報告されています。
例えば、関節リウマチ患者5例(女性4例・男性1例)でQスイッチレーザー施術直後に照射部位が青灰色の斑点状に変色したとの報告があります。興味深いことに、これらの患者は8g以上の金製剤を3~13年にわたり投与されており、金製剤中止後最大26年経過してからレーザーを受けた症例も含まれていました。つまり、過去に金製剤を使用していた患者でも、何十年も後にレーザー脱毛等の施術でクリシアシスを生じる可能性があるのです。
一度生じたクリシアシスの色素沈着は基本的に不可逆的で治療が困難とされており、美容的にも大きな問題となります。
● その他の皮膚副反応: 金製剤自体の副作用として皮膚のかゆみや湿疹、蕁麻疹様の発疹が比較的起こり得ます。もし金療法中に発疹が出現した場合、通常は金製剤の投与中止が指示されます。まれな副作用として全身の皮疹・皮むけに至るケースも報告されていますが、頻度は低いです。また、金製剤による爪や毛髪、粘膜への色素沈着は通常認められないとされています。医療脱毛時に皮膚障害が起きるリスクを最小限にするためには、こうした金製剤由来の皮膚症状がコントロールされていることを確認し、施術の強度や方法を慎重に検討することが望ましいでしょう。
日本国内における金製剤の処方状況
● 金製剤の歴史と現在の使用頻度: 金製剤(オーラノフィンや金チオリンゴ酸ナトリウム注射液)は、20世紀には関節リウマチ(RA)治療の中心的薬剤の一つとして使用されてきました(日本では1929年に金療法が導入)。特に関節リウマチや乾癬性関節炎に対する疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)として効果が認められ、骨破壊の進行抑制作用は現在でも一定の評価があります。実際、金製剤(注射剤GST)はメトトレキサートと同等の骨破壊抑制効果を持つとの報告もあり、生物学的製剤が普及する以前は広く処方されていました。しかし、近年の生物学的製剤やJAK阻害薬の登場・普及に伴い、金製剤の使用は大幅に減少しています。日本リウマチ財団も「他の治療法の進歩により、以前ほど(金製剤は)使われなくなった」と述べており、現在では新規に処方されるケースは極めて稀といえます。実際には、他の治療に反応しない、あるいは使用できない特殊な患者に限り例外的に選択肢として残っている程度です。
● 経口金製剤(オーラノフィン)の状況: 日本で使用された経口金製剤「リドーラ錠」は、関節リウマチの寛解導入剤として1980年代以降用いられてきました。しかし、製造上の問題も重なり、2015年6月をもって販売中止となっています。先発品の販売中止後、後発品(ジェネリック)も市場に出ましたが、それも数年内に販売中止となり、現在では経口金製剤は事実上国内で入手困難な状況です。金製剤自体が「過去のものになりつつある」と専門医からも言及されるように、この10~20年で関節リウマチ治療は大きなパラダイムシフトを遂げ、オーラノフィンは役割を終えつつあります。

● 注射金製剤(シオゾール)の状況: 筋肉内注射用の金製剤「シオゾール」(金チオリンゴ酸ナトリウム)は、日本で最も古い抗リウマチ薬の一つです。週1回筋注で投与され、効果発現まで時間がかかるものの、一部の患者では長期にわたり疾患コントロールに寄与しました。しかしこのシオゾールも近年では需要減に伴う原薬メーカーの製造中止に直面し、2024年9月に製造販売元から出荷停止となっています。日本リウマチ学会の報告によれば、原薬供給が途絶したため在庫限りで供給停止となり、他の製造元を模索しているものの見通しは立っていない状況です。事実上2025年以降は新たな供給がなければ金製剤注射は入手不能となる見込みです。

● 使用実態と適応疾患: 日本国内の関節リウマチ患者数はおよそ70~80万人と推定されますが、その中で金製剤治療を受けている患者は近年ではごく一部に留まります。かつては多くのRA患者に投与されていた金製剤も、メトトレキセートの普及(1999年承認)や生物学的製剤の台頭(2003年以降)によって急速に置き換えられました。例えば、2000年代以降はメトトレキセートを含む他のDMARDsの効果向上により、金製剤を新規導入するケースは激減しています。また、治療ガイドライン上も金製剤は第一選択肢ではなくなっています。適応疾患としては関節リウマチが主でしたが、他に若年性関節炎や乾癬性関節炎で試みられたこともあります。ただし現在これらの疾患でも金製剤より副作用が少なく効果的な薬剤が多数存在するため、金製剤が使用される場面はほとんどありません。
● 金製剤使用患者数の推移: 公的な詳細統計は限られますが、厚労省の安全性情報によると金製剤の使用患者数は年々減少しており、一人あたりの使用量も減り投与間隔が延長された結果、金製剤に起因する有害事象の報告も著しく減っているとされます。
● まとめ: 金製剤はかつて関節リウマチ治療の重要な位置を占めましたが、副作用(皮膚の光線過敏や色素沈着、腎障害・血液障害など)の問題や新薬の登場により、国内では急速に使用が減少しました。医療脱毛の現場では、過去に金療法を受けた患者の存在自体が少なくなっていますが、万一該当する患者がいる場合にはレーザー・光脱毛に伴う皮膚合併症(クリシアシスなど)に十分注意する必要があります。また金製剤使用中の患者については、主治医との連携の下で安全に美容施術を行う計画を立て、必要に応じて施術を控える判断も求められるでしょう。最新の知見や症例報告に基づき、安全対策を講じることで、患者にとって最適な医療と美容上のケアの両立を図ることが可能です。