
レーザー脱毛を受けられている方ならご存じの通り、施術前は照射部位の剃毛が必要となります。脱毛しよう!と思って受けたカウンセリングで初めて知る方も多いかと思いますが、普段から剃る習慣が無い方や剃毛する部位によっては、なかなか難しいと感じますよね…
当院でも、レーザー脱毛の施術前は毛を根元までしっかり剃っていただくよう患者様にお願いしておりますが、「時間をかけたのにうまくできない」、「剃ったつもりだけど残ってしまう」、「どうしたらうまく剃れるの?」といった剃毛に関するお悩みが多く挙がります。
今回は、一体なぜ施術前の剃毛が必要なのか、そしてその正しい方法について2回に分けて解説していきます。
脱毛の仕組みと剃毛におけるNG行動
レーザー脱毛はレーザー光がメラニンに反応する特性から成り立つ仕組みです。
毛は皮膚の表面に出ている部分を「毛幹」、皮膚の下側に埋まっている部分を「毛根」といい、毛根の周囲には毛根全体を取り巻く「毛包」という組織があります。毛根のさらに根本の部分を「毛球」といい、成長期には丸く膨らんだような状態になります。
レーザーは皮膚に照射されると、皮膚のメラニン、毛のメラニン、ヘモグロビン(血管)、水分といった人体を構成する物質に吸収されます。メラニンが多ければ多いほど、その箇所への吸収率は高まりますので、太くてしっかりとした毛には効きやすいという特徴があります。
どうやって発毛組織を破壊するの?
では、実際にどのようにして発毛組織を破壊しているのでしょうか。
皮膚に照射されたレーザーが毛のメラニンに吸収されると、熱エネルギーにより毛そのものが熱を発します。やかんそのものは熱くないですが、これを火にかけると熱くなるのと似たような仕組みです。この熱いやかんを触ると火傷するのと同じように、レーザーを吸収した毛の周囲の組織には毛が発する熱によりダメージが加わります。
毛を通して発毛にかかわる組織にダメージを与え破壊するというのがレーザー脱毛の仕組みです。
レーザー脱毛では施術前に毛抜きで毛を抜くことは禁止されていますが、毛周期によって毛穴に毛が無い箇所にはレーザーの効果が出ないという考え方からも分かるように、レーザー脱毛においては毛が重要な役割を果たしています。
肌へのダメージと対策
破壊したい発毛組織にだけダメージを与えることが出来れば一番ではありますが、レーザー脱毛でそのようにすることは難しく、周囲の皮膚や肌表面にもダメージが生じます。
その影響を最小限にするために重要となるのが保湿や日焼け対策などのお肌のケアです。
肌状態が悪いと剃毛の際に痛みを感じたり、カミソリ負けやかゆみなどの肌トラブルを起こしやすくなったり、刺激でより乾燥が進むなど、施術前の剃毛や剃毛後の肌にも影響を及ぼします。また、日焼けにより皮膚のメラニン量が増えると、肌に吸収されるレーザ光=熱エネルギーが増え、その分肌が受けるダメージも大きくなってしまいます。
十分に保湿されている肌や日焼けの無い肌は、バリア機能がしっかりと働き、不要な箇所への影響も減るため、剃毛やレーザー照射によるダメージが抑えられ、回復も早くなります。
もう一つのNG行動
ここで併せて覚えていただきたいのが、施術前の「除毛クリーム」の使用についてです。
結論から申し上げますと、当院では施術前の除毛クリームの使用はNGとなります。
除毛クリームは薬剤によって毛を溶かし除去する優れものですが、毛根まで除去する機能はないと言われています。毛根が残るなら問題ないんじゃないの?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、どうしてダメなのか考えてみましょう。
人の髪や毛、爪、皮膚表面は主に「タンパク質(ケラチン)」で出来ています。除毛クリームは、このタンパク質を分解し溶かす成分を配合した薬剤であるため、クリームを塗布した箇所のタンパク質、つまり皮膚表面のタンパク質も溶かします。
皮膚表面は肌のバリア機能を果たす大事な役割を担っており、ここがうまく機能しなかったり、過剰に刺激を受けると、炎症やかゆみ、赤み、肌荒れといった肌トラブルに繋がります。除毛クリームを使用したことがある方の中には、こういった肌トラブルを経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
施術前に肌状態が悪くなってしまうと、出力を下げたり、照射自体を避けたりと、効果に影響をもたらす可能性が高くなることから使用を禁止しています。
剃毛とレーザー脱毛の関係性
そもそも、施術前になぜ剃毛が必要なのか、その理由は主に効果と肌トラブル(やけど)予防にあります。
レーザーは毛のメラニンに反応し熱を発生させますが、熱を吸収する面積や体積が大きいほどそのエネルギーは分散し、不要な箇所にまで影響を及ぼします。レーザー脱毛でダメージを与えたいのは、バルジ領域と毛球のある毛根部分であり、皮膚表面に伸びてきた毛幹部分は関係ありません。むしろ、毛幹にエネルギーが分散してしまうと、毛根への効果が落ちてしまう要因となります。
また、レーザー光の熱エネルギーはメラニンに吸収され熱を発し、その周囲にも影響を及ぼすため、熱源(毛)が触れている箇所にはダメージが生じるということになります。毛が伸びた状態で照射をすれば、伸びた毛にもレーザーが反応し焼けこげます。焼けこげた毛が皮膚表面に触れていれば、その箇所に火傷を生じる可能性が高くなってしまうのです。
施術前の自己処理が大切な理由①
多少の剃り残しであれば、施術の時間内で施術者が剃毛して照射をすることは可能です。しかし、剃り残しが多いとすべての剃毛と照射を時間内に行うことは難しくなってしまい、剃毛に十分な時間をかけられないことで産毛や細めの毛は残ってしまう可能性があります。
産毛などのメラニン量の少ない毛では、レーザーの効果は出しにくくなります。元々効果を出しにくい毛の不要な箇所にまで熱エネルギーが分散するということは、より効果が出にくくなってしまう可能性を高める要因となります。
施術前の自己処理が大切な理由②
レーザー脱毛には皮膚の火傷リスクが伴います。特に、色味がある箇所や肌色が暗い方、毛が密集している箇所などはリスクが高くなります。当院では、肌状態が良好で痛みに耐えられる場合、出力を強めに設定していますが、出力は上げれば上げるほど火傷のリスクも高くなるため、効果とリスクの双方を考慮し見極めることが重要となります。
前述の通り、焼けこげた毛が皮膚に付着することでも火傷のリスクが高まりますが、こちらは皮膚表面に残る毛幹部分を根元までしっかりと剃ることで防げます。
細い毛や産毛では多少毛が伸びている状態で照射を行っても火傷のリスクは高くありませんが、太い毛の場合はそうもいきません。下半身やワキなどの太い毛の剃り残しが多い場合は、安全に照射ができる程度まで剃り直す必要がありますが、それには時間を要するため、施術の時間内で出来る範囲に限りが生じてしまいます。
より良い効果を出すために
剃毛が不十分だと効果が落ちたり、火傷のリスクが高まるなどの影響を及ぼすことから、施術前の自己処理をしっかりと行っていただくことは必要不可欠となります。
レーザー照射前に毛をしっかり剃ると、レーザー光が皮膚表面でムダに吸収・散乱されないため、深部の毛根までまっすぐ届きやすくなります。その結果、レーザーの効き目は安定し、皮膚表面の熱ダメージ(火傷)のリスクも下がるという研究結果もあるようです。
剃毛の残りが少なければ、肌状態を十分に確認したり、痛みに合わせて照射のスピードを調整したり、脱毛や肌に関するお悩みの相談をしたりといったことに時間を割くこともできます。
もちろん、施術者も限られた時間の中で満足度の高い施術をご提供できるよう努めてはおりますが、患者様おひとりおひとりに合わせて確認や調整を行ったり、十分なコミュニケーションを取る時間を設けられることは、より良い結果を出していくためにも大切なことのひとつだと考えます。
あとがき

今回はなぜレーザー脱毛前の剃毛が重要なのかという点についてお伝えしました。
レーザー脱毛で十分な効果を出すためには、施術前の剃毛が大切なポイントのひとつとなることをお伝えできていれば幸いです。
患者様の中には、剃毛が得意な方や少し苦手に思っている方、それぞれいらっしゃいます。苦手意識を持っていたり今までやったことが無かったりという方でも、適切な道具と方法で十分な時間をかけることで、ほとんど剃り残しなく剃毛が出来ている方も多くいらっしゃいます。
次回は今回の内容と併せて、実際どのようにして施術部位の剃毛を行ったら良いのかという点についてお届けします。
「初めての時よりは時間がかからなくなった」、「自分なりに上手に剃れる方法を見つけた」と、少しでも剃り残しが減るよう努力されている方々や、「脱毛はしたいけど剃るのは面倒…」、「頑張ってもうまくできない」と剃毛に悩まれている方々の参考や励みになれば幸いです。ぜひご覧ください。
参考文献
記事監修

森口翔 M.D. Ph.D
慶應義塾大学医学部卒業
慶應義塾大学医学部大学院博士課程修了
医療脱毛専門クレストスキンクリニック医師



