
硬毛化の概要
通常、医療レーザー脱毛や光脱毛(IPL)の施術後には毛が減るはずですよね。しかし一部の人では、その逆に毛が前より太く濃く生えてしまうことがあります。この現象は医学的には逆説的多毛症(paradoxical hypertrichosis)と呼ばれますが、日本の美容医療やクリニックでの説明では一般に「硬毛化(こうもうか)」と呼ばれています。つまり、本来は薄い産毛だった毛が、脱毛の照射をきっかけに硬く太い毛に変わってしまう副作用です。
硬毛化が起こる頻度は幸いそれほど高くありません。報告する研究によってばらつきがありますが、例えばあるIPL脱毛の研究では約5%の患者に硬毛化が確認されています(Radmanesh2009)。一方、複数の研究結果をまとめた最新のメタ解析によれば、硬毛化の発生率は平均で約0.6から3%程度と見積もられています(Snast2021)。珍しいケースとはいえ、ゼロではない数字ですので「稀に起こりうるリスク」として知っておく価値があります。一方で現実ではもっと起こっているのではないかとも言われており現状でもまだその発生率は定まってはおりません。
また、硬毛化が起こりやすい部位にも偏りが見られます。硬毛化は特に顔や首周りなど産毛の多い部位で起こりやすいことが知られており、実際に顔・首以外での発生率は0.1%未満と極めて低いとの報告があります。
一方で体の部位でも起こり得ます。2024年のある報告では、全例女性ではありますが、硬毛化が起きたケース(全体の0.34%)の部位は顔よりも上腕や乳輪周辺が多かったとされています(Inoue2024)。つまり、産毛が多い部位であれば顔以外でもリスクはゼロではありません。
硬毛化のリスク要因について、使用する脱毛機器との関連ははっきりしていません。大規模解析ではレーザーの種類(アレキサンドライトレーザー、ダイオードレーザー、ヤグレーザーなど)や光脱毛(IPL)といった装置の種類による発生率の差は有意でないとされています(Snast2021)。
ただし一部の報告では、アレキサンドライトレーザーで照射を受けたケースに硬毛化が集中していたとの指摘もあります(Inoue2024)。前述の2024年の研究では、硬毛化を生じた25人中24人がアレキサンドライトレーザーでの脱毛を受けていました
現時点ではデバイスの種類よりも照射部位や個人差の影響のほうが大きいと考えられていますが、機器ごとのリスクについても今後さらに検証が必要です。
このように硬毛化は誰にでも起こるわけではなく個人差があります。性別や肌質との関連は明確ではなく、男性より女性に多いとも断言できません。ただ、体質的な要因としてホルモンバランスの乱れなどが関与する可能性はあります。いずれにせよ、硬毛化は稀な副作用ではありますが、医療脱毛を受ける以上ゼロとは言えない現象です。「なぜ毛が減るはずの脱毛で毛が増えるのか?」次にその不思議なメカニズムについて見てみましょう。
硬毛化のメカニズム
硬毛化が起こる原因(メカニズム)は、実はまだ完全には解明されていません。しかし近年の研究でいくつか有力な仮説が示されています。
まず、体質的な要因も一つの鍵かもしれません。硬毛化を経験した女性の症例を調べた報告では、その一部に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などホルモン異常を抱える人が含まれていたことが指摘されています(Avci2013)。PCOSは体毛が増えやすい疾患の一つであり、元々ホルモンの影響で毛が濃くなりやすい体質だと硬毛化を招きやすい可能性があります。ただし、こうした内分泌要因だけでは説明がつかない部分も多く、次に述べるように照射そのものが毛包に与える影響に関する仮説も提唱されています。主なメカニズムとして以下のような説があります。
- 低出力の刺激による毛包活性化: 脱毛に使うレーザーや光のエネルギーが不十分で、中途半端な刺激となってしまうと、逆に休止状態の毛包を活性化させてしまう可能性が指摘されております(Loris2006)。本来であれば高出力で毛包を破壊すべきところ、エネルギーが弱いと毛根細胞が完全には死滅せず、「休止期」にあった毛包が刺激を受けて目を覚まし成長期に移行してしまうイメージです。言い換えれば、レーザーの出力が弱すぎると抑毛ではなく育毛効果を生んでしまうという逆説的な現象です。
- 毛周期の同期化: 毛には「成長期・退行期・休止期」といった生え変わりのサイクル(毛周期)があり、通常バラバラのタイミングで生え替わります。ところがレーザーや光の刺激が毛周期を同期させ、休止期の毛が一斉に成長期に入って一時的に毛量が増えたように見える、という説もあります(Loris2006)。脱毛の刺激で周辺の眠っていた毛包がいっせいに目覚めてしまい、新しい毛が同時に生えてくるため、一時的に毛が濃くなったと感じられるわけです。
- 熱ショックタンパク質による毛嚢刺激: レーザー照射時の熱による刺激も注目されています。高熱で毛包を破壊するには至らないまでも、照射による熱ダメージが毛包の細胞にストレスを与え、その結果熱ショックタンパク質(HSP)と呼ばれるタンパク質が増えて毛の成長が促進される可能性があります(Avci2013)。HSPとは細胞がストレスを受けた際に発現するタンパク質で、細胞の修復や増殖を助ける役割があります。レーザーの熱で局所的にHSP(特にHSP27)の産生が増えると、毛包の幹細胞が刺激されて毛の成長シグナルが活発になってしまう、という仮説です。
- 成長因子の放出と血流増加: 不完全な熱ダメージや炎症によって、毛包から成長因子が放出されることも考えられます。その結果、周囲の血管が新生して局所の血流が増え、毛に栄養が届きやすくなることで毛の成長が促進されるというメカニズムです(Avci2013)。レーザー照射により生じた微小な炎症反応でサイトカインや成長因子が産生され、毛根への血流が増えると、かえって毛が育ちやすい環境になってしまう可能性があります。
以上のように様々な仮説がありますが、いずれも完全に証明されたわけではありません。硬毛化という現象は一つの原因ではなく、これら複数の要因が組み合わさって起こっている可能性も指摘されています。今後の研究でさらに詳しいメカニズムの解明が進むことが期待されています。
まとめ
硬毛化を防ぐために、現時点で明確に確立された方法はありませんが、いくつか心掛けられるポイントがあります。まず、脱毛施術はできるだけ実績のある医療機関で受け、照射設定(出力や照射間隔など)を適切に行ってもらうことが大切です。経験豊富な医師や看護師であれば、産毛の多い部位には機器や出力を調整するなど硬毛化のリスクを抑える工夫をしてくれるでしょう。実際に照射エネルギーが不十分だと硬毛化を招きやすいと考えられるため、安易に出力を下げすぎず適切な設定で施術を受けることが重要です。
日常のケアでは、肌の紫外線対策も有用かもしれません。2024年の研究によれば、日焼け止めを日常的に使用していた人は、そうでない人に比べて硬毛化の発生率が有意に低かったというデータが報告されています(Inoue2024)。これは一例ではありますが、脱毛期間中は特に肌を日焼けさせないよう注意することでリスク低減につながる可能性があります。そもそもレーザー脱毛後の肌はデリケートで色素沈着など他のトラブルも起こりやすいため、日焼け止めの使用やUVカット対策は硬毛化に限らずぜひ習慣にしてください。
体質的な面では、女性で月経不順や多毛傾向がある場合には婦人科的な検査を受け、ホルモン異常(例えばPCOS)の治療を検討することも一案です。ホルモンバランスを整えることで過剰な体毛の発生自体を抑えられる可能性があります。硬毛化そのものの予防策として確立しているわけではありませんが、元々体毛が増えやすい要因をコントロールすることは脱毛の効果を高める上でも有益でしょう。
今後の研究動向としては、硬毛化のメカニズム解明と予防法の確立が大きなテーマです。現在提唱されているような熱ショックタンパク質や成長因子の関与について、より詳しい分子レベルでの研究が進めば、「なぜ一部の人だけ硬毛化するのか」が明らかになるかもしれません。将来的には、遺伝的な素因やホルモン状態など硬毛化のリスク因子を事前に評価できるようになる可能性もあります。それによって、リスクの高い人には最初から異なるレーザー波長を選択する、適切な出力設定をより慎重に決める、といった個別最適化医療が実現すれば理想的です。また、新しい脱毛技術の開発も期待されます。例えば、硬毛化を起こしにくい波長やパルス幅のレーザー、あるいは硬毛化した毛だけをピンポイントで減らす補助治療など、今後さらなる改良が進んでいくでしょう。
まとめると、硬毛化は医療脱毛における珍しい副作用ですが、適切な対応策が取られつつある現象です。過度に心配する必要はありませんが、知識として理解しておくことで万一生じた際にも落ち着いて対処できます。美容クリニック側も硬毛化リスクを把握して施術計画を立てていますので、疑問や不安があれば遠慮なく相談してください。今後の研究によって硬毛化の予防策がさらに充実し、誰もが安心して脱毛を受けられるようになることが期待されています。
参考文献
- Radmanesh M. Paradoxical hypertrichosis and terminal hair change after intense pulsed light hair removal therapy. J Dermatolog Treat. 2009;20(1):52-54. PMID: 18629677
- Snast I, et al. Paradoxical Hypertrichosis Associated with Laser and Light Therapy for Hair Removal: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Clin Dermatol. 2021;22(5):615-624. PMID: 34057666
- Inoue Y, et al. What are the Factors That Induce Paradoxical Hypertrichosis After Laser Hair Removal? Aesthet Surg J. 2024;44(5):NP347-NP353. PMID: 38299374
- Avci P, et al. Low-level laser (light) therapy (LLLT) for treatment of hair loss. Lasers Surg Med. 2014;46(2):144-151. PMID: 23970445
- Lolis MS, Marmur ES. Paradoxical effects of hair removal systems: a review. J Cosmet Dermatol. 2006;5(4):274-276. PMID: 17716243
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記事執筆

- 森口翔 M.D. Ph.D
- 慶應義塾大学医学部卒業
- 慶應義塾大学医学部大学院博士課程修了
- 医療脱毛専門クレストスキンクリニック医師